魚拓で包んだ
弁当箱。


その魚拓の
採取元である魚は
その日のおかずとして
弁当箱の中に
収まっており、
これが彼の家に
代々つたわる
大自然への感謝の
表し方であったが、

包みをほどくまえに
彼はその日の魚拓の
異常に気づいていた。

 
足がある。


 
「進化だ」
 
目を輝かせ、彼は級友に魚拓をふりかざす。
 
「進化だよ!」
 
級友の森田くんは手で口を押さえて奇妙な声を出し、頬が大きくふくらんだ。
 
「それも進化だよ!」
 
必死で飲みくだす森田くんをよそに、弁当箱の蓋を開けようとする彼と、開けさ
せまいとする他の級友たちとの格闘は五限終了後まで続き、圧倒的多数の勝利に
よって弁当箱は未開封のまま焼却炉の炎の中に消え、幕となった。
魚拓もまた一瞬にして灰になった。
弁当の持ち主は空腹のため無表情になり、膝をかかえて教室の隅にうずくまる。


だが彼らは、魚拓にとられたその指に注目するべきだったのだ。
親指がまだ他の指と向き合っておらず、道具を使える段階には達していないこと
がわかったはずだ。


彼らにはまだ時間があった。


しかし誤算は言うまでもなく、その時間が無限にあるという、いつの時代も変わ
らぬティーンエイジャー特有の無根拠な思いこみにあったのである。


その2日後、問題の生物はいっせいに上陸を開始した。



でもこれがおいしかったから大変!



乱獲であっという間に全滅。


地上の覇者はおくびをもらし、ふたたび永い眠りについた。
 

「食物ピラミッドパワーで肩こりが!」
 

「肩こりが?」


「煮こごりという言葉を思い出させる不思議」
 
「不思議じゃのう。不思議じゃのう」