かの国には
口内炎」を表現する単語が
256通りもあるのだといいます。


「舌の先っちょに出来た口内炎

「左の頬の内側にある口内炎

「下唇を噛んだのが原因で
 出来てしまった口内炎

「大型で強い勢力の口内炎

「歳の数だけ口内炎

「夕飯は
 タイカレーなのに
 口内炎


これらの単語はどれも、
発音するときに
該当する患部が
歯などに当たって激痛を
ひきおこさないように
よく考え抜かれた口の形で
発音されるようになっています。

舌にできた口内炎
意味する言葉を発するときには
舌は口のなかのどこにも
触れません。

実際のところ、
ほとんどの単語は
発音ではなく
単なる身振りや
顔の筋肉の微妙な痙攣で
表現されるのです。

たとえば、

「右頬の奥の下あご側にできた
クレーター状の巨大な口内炎
煎餅のかけらがスッポリはまって
ナウ私テイスティング地獄」

という状態を意味する単語は、
手を頬にあて、顔を左右非対称に
痙攣させながらバリ舞踊のような
独特の動きをすることで表現され、
これが周囲の人々の深い同情と
あいまいな笑いを誘います。


しかし以上はあくまでも
よい国の例であって、
これが悪い国になると
口内炎」を意味する単語は
それを発音すれば必ず
いちばん痛い形でその場所を
噛むようにできており、
致命傷を負った
リアクション芸人のような
ユーモアに乏しい所作で
「ごあっ」などと呻くばかりで
大変鬱陶しく、その上
なに言ってんだかも判りません。

なんという不便!
コミュニケーションの不全!
江戸時代のお百姓さん風に言うなら
「小○(こまる)」!!


「こまるなあ口内炎

「わかったから
 暴君ハバネロを食いたまえ」

「おあっ・ごあっ」


口内炎について書きたくなるのは
大抵ひどい口内炎から快復しつつある
最中であるということがわかりました。

今回は、舌の付け根の右と左に
でっかい兵隊アリが一匹ずつ
噛みつきっぱなしみたいな
口内状態が、うう、ああ、
……はっ! 夢か。
いやこっちが夢か。ぐらいの
もうアレだったんですのよ奥様。
……奥様?