幻聴で

幻聴で

「兄5匹」♪


幻聴で

幻聴で

「兄5匹」♪




それ自体は
たしかに幻聴だったものの
5匹の兄のほうは幻覚ではなく、
夜中に目覚めた妹の布団を
ぐるりと正五角形の陣形で
取り囲んでいたと
いうではありませんか。


5匹の兄はそれぞれが
イデオロギー的かつ
思想的にまったく
矛盾したことを喋るので、

「ちがう、これは
 分身の術じゃない」

妹の混乱は深まるばかり。


その一方で
5匹の兄の髪型もまた
一様に整えられてはおらず、

「ちがう、これは
 テクノポップじゃない」

妹としてはやや不満。


枕の下から刃渡り10センチの
十字手裏剣を取り出し、
手際よく兄の眉間に投げる妹。

脱ぎ捨てた上着のように
ランダムに畳まれた姿勢で
床の上に沈黙する兄5匹。


「ちがう、これは
 個性的な対応じゃない」


そう気付いた妹がしぶしぶ
兄たちの眉間から
手裏剣を引き抜くと、
5匹は再び
末法指標や草の根連行や
「保存せずに終了」などに
ついて際限のない語りを始め、
ありていにいって
鬱陶しい。 非常に。


妹がぼんやり考えていたのは
こんなことでした、
やはり猫を飼うべきだった、
猫がここにいたならきっと
不可視の実体を見定めて
過剰なレトリックを切り裂き、
両の前足を器用に使って
膠着した論理の奥襖を開いて
みせてくれただろう、
毛玉を吐いたかもしれない、
だがそれはいい、
猫を飼うべきだったのだ。


5匹の兄の口には泡が溜まり、
その手の動作はしだいに奇妙さを
増しつつも一向にテクノポップ風には
ならず、ただただ異様なだけなのでした。


兄どもよ、もういい、もうわかった。
結局のところ妹は思いなおして
手裏剣をふたたび構え、
巧みな手首のスナップで
サウンドをストップさせると
数秒後にはすやすやと
穏やかな寝息をたてていました。