「移動民芸館」は
北上し、

「移動昆虫館」は
西へ向かい、

両者のコースは
将来どこかで
交差するものと
思われていました。


 
「移動民芸館」は
外見上は普通の
イナバ物置ですが
内部の床には
みちのくのこけし
直立した状態で
隙間無く敷き詰められ、
これらがランダムに
「ひょこっ、ひょこっ」と
とびだすのを
髪を振り乱した男が
「う、うあぁ!
 う、うあぁ!」と
スリッパで叩いてまわる
ルーティンワークを
動力源として
移動するのでした。

 
「移動昆虫館」は
外見上は普通の
キャンピングカーながら
内部の作りつけ家具の
あらゆる隙間から
昆虫たちがランダムに
「ひょこっ、ひょこっ」と
とびだすのを
髪を振り乱した男が
「う、うあぁ!
 う、うあぁ!」と
スリッパで叩いてまわる
ルーティンワークを
動力源として
移動するのでした。

 
どちらも
「う、」で発見し
「うあぁ!」で
叩くのでした。

 
つねに一拍遅れるために
標的には一度もヒットせず、
そのため男はより一層
クレイジーになって
ゆくのでした。

 
この髪を振り乱した
ふたりの男、
じつは
血の繋がらない
双生児であり
血の通わない
工業製品であり
やがて合流する
地点において
ふたりの頭部は
交換され、
一瞬キョトンとしたのちに
両者はふたたび
「う、うあぁ!
 う、うあぁ!」の
無限ルーティンに
果敢に挑んで
ゆくのでした。

 
がんばってほしい。
どこまでも。

 
万が一
ヒットしちゃったら
どんな機構が
作動することになるのか、
それは知らずに
いてほしい。

 
「具体的にどうなるかは
忘れたが、
『黒ひげ危機一髪』を
参考にしたと思う」
(設計者談)