2006_12_22


小ぶりの茶碗に控えめによそわれた白飯の
ひとつひとつの飯粒から微弱な光線が
発せられており、それらが男の額の中央に収束し
緑がかった光点となって静かに明滅していた。
 
「……あの男は、ご飯にあやつられている!」
 
汗をかき見守る曇之助の視線にも気づかず、
男はそそくさと飯をかきこむと味噌汁を飲み干した。
数千の飯粒が男への搭乗を完了し、一人の人間が
ご飯に完全に乗っ取られた形である。
 
直後、曇之助は以上の出来事を完全に忘却し、
頭の中で災害時の避難経路を再確認する作業に
全神経を集中した。だが、どんなルートを選んでも、
あの恐ろしい路地を通らずには定められた
避難場所に行くことができないのだった。
ならば空路ではどうか。
 
曇之助にはどうしてもわからないことがあった。
飛行機はどうして空を飛べるのだろうか。
「乗ればわかる」と思い、だが「わからないうちは
怖くて乗れない」とも思う。二つの気持ちの間で
曇之助の心は定まらずにいた。
 
先ほどの男は店を出ると忙しげに車道を横切り、
走りこんできた乗用車の運動エネルギーを利用して
あわただしい離着陸を敢行すると、
次第に大きくなるサイレンの音を背に取り囲む群衆に
「だいじょうぶッス」「だいじょうぶッス」と
小さな声でくりかえしていた。
 
一部始終をぼんやり眺めていた曇之助は、
理由はよくわからないが、なにやら
胸のつかえのおりたような心持ちになって
家路についたのであった。
あの路地を迂回する必要のため、それは
三時間半の長旅となった。


 
…みたいに
思いついた名前でストーリーを作ってみると
名前に現実味というか実在性が増して
命名作業の助けになるのではないかと
思いまし思いませんでした。