■
どんな幻覚がいちばん怖いだろうかというのを、
幻覚なんて生まれてから一度も見たことないくせに
いっしょうけんめい考えたことがありました。
以下はそのときの順位なのですが、
3位: サワガニ地蔵
2位: 細木数子
1位: 手招きするどこでもドア
3位の「サワガニ地蔵」というのはまあ、単に
サワガニにびっしりと覆われているだけの
お地蔵さまですね。
サワガニだけど色は真っ赤で、
カニの群れに隠れてお地蔵さまの顔は見えません。
これが夜道を歩くときだけ、脇をぴったりと
同じ速度の平行移動でついてくるというものでした。
(評価:ふつう)
2位の「細木数子」は、細木数子です。
占い師というよりは超能力者に近い正確さで
日常の一挙手一投足を逐一予言し、
非常に辛辣なコメントを逐一付け加えます。
また、あらゆる印刷物の顔がすべて細木和子に
なるというオプションも付きます。
(評価:イヤだ)
第1位の「手招きするどこでもドア」は、
誰かと談笑している時に頻繁に出現し、
半開きのドアの隙間から伸びた手が
こちらに手招きをするというものです。
必死で見ない振りをしなければいけません。
また、しばしば他のドアに偽装するので、
帰宅して玄関のドアノブを握った瞬間に
それが実はあれであることを悟り、
悲鳴を上げて飛びすさる、というような
出来事が頻発することになります。
(評価:超こわい)
そんな事を思い出した流れで想像するに、
おうちで今やばいのは
天井から下がる手ですね。
生命の痕跡の全然ない灰色っぽい色調のやつが
別になにをするでもなく
ただ天井からぶら下がってるだけなんですが、
気づかずにその下を通ると
その指先がちょうど頭のてっぺんに
触れるか触れないかというあたりを
ふうっとかすめるようになっていて、
風がそよぐようなそこはかとない感触で
かろうじて存在に気づくというものです。
これが何度も続くと、
つむじがだんだん大きくなる例の魔法を
自分にかけているのは実はこの手なのでは
ないかという気がしてきて、大変嬉しくない
気持ちになるというわけなのでした。
それだけならば
まッ だッ いッ いッ がッ
(↑懐かしい)
(↑とても懐かしい)
いつのまにかこの手が
顔の高さまで下りてきていることがあり、
ふと呼ばれて振り向いた顔の真ん中に
冷たい手のひらが
「ぺたっ」
となるからさあ大変。
私もこれには大層腹を立てまして、
おまえは「肩を叩いて振り向いたほっぺに
人差し指をめりこませる奴」か! と
上下逆様の手相に向かつて
云つてやつたのです。